広島高等裁判所 昭和28年(ネ)15号 判決
被控訴人は別紙目録記載の(三)の土地に対し昭和二十六年六月二十日防府油脂工業株式会社に対する滞納処分としてなした差押登記(山口地方法務局徳山支局昭和二十六年六月二十日受附第三六五七号)の抹消登記手続をしなければならない。
控訴人その余の請求はこれを棄却する。
控訴人と防府油脂工業株式会社との間において昭和二十六年六月九日になした控訴人が右会社に対し有する同日貸付金五十七万九千四十円の貸金債権を右会社が同年七月十日までに支払はないときは右会社は代物弁済としてその所有する別紙目録記載の(一)(二)(三)の土地の所有権を控訴人に移転する旨の代物弁済契約は別紙目録記載の(一)(二)の土地に対する部分に限りこれを取消す。
控訴人は被控訴人に対し右(一)(二)の土地について山口地方法務局徳山支局昭和二十六年八月十三日受附第四四三七号をもつてなされた右代物弁済契約に基く所有権移転登記の抹消登記手続をしなければならない。
被控訴人その余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用(本訴反訴共)は第一、二審共控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は原判決を取消す被控訴人は別紙目録記載の(一)(二)(三)の土地に対し昭和二十六年六月二十日防府油脂工業株式会社に対する滞納処分としてなした差押登記(山口地方法務局徳山支局昭和二十六年六月二十日受附第三六五七号)の抹消登記手続をしなければならない被控訴人の反訴請求を棄却する。訴訟費用(反訴本訴共)は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め被控訴代理人は本件控訴(本訴反訴共)はいずれもこれを棄却する控訴費用(反訴本訴共)は控訴人の負担とするとの判決並に原判決主文第二項の控訴人に対し所有権移転登記の抹消登記手続をなすべき旨命じた部分につき仮執行の宣言を求めた。
当事者双方の事実上の主張は控訴代理人において本訴につき
一、被控訴人の本案前の抗弁及控訴人と訴外防府油脂工業株式会社(以下訴外会社という)との間に成立した控訴人が同会社に対し有する貸付金五十七万九千四十円の貸付金を同会社が昭和二十六年七月十日までに支払はないときはその所有する別紙目録記載の(一)(二)(三)の土地(以下本件土地という)の所有権を代物弁済として移転する旨の停止条件附代物弁済契約(以下本件代物弁済契約という)は通謀虚偽表示であつて無効であるとの主張の撤回については異議がない。
二、本件代物弁済契約成立の日時は昭和二十五年八月二日であつて控訴人の本件土地代金の貸付と同時になされたものであり右契約につき仮登記のなされた昭和二十六年六月九日ではない即ち控訴人が訴外会社に本件土地売買代金を貸与したのは同会社の取締役であつた国吉省三より本件土地につき弁済確保のための代物弁済契約及その保全のための仮登記をなすことにつき当局の了解を得たとの申出があつたのでこれに基きなされたものである。さればこそ右目的を達するため右貸付金は直接訴外会社に送金せず徳山市所在日本油業株式会社に送金し同市に居住せる控訴人の取締役である磯部喜一をして訴外会社代表者岩本得造より本件代物弁済契約に基く所有権移転請求権保全の仮登記申請に必要なる委任状等を受取らしめその入手を確保した上右貸付金をもつて訴外会社に代つて直接国に対し本件土地売買代金の支払手続を完了せしめたのであるそして直ちに右仮登記の申請をなすことを司法書士西見毅に依頼し右委任状等を手交したが右仮登記が昭和二十六年六月十九日に至るも出来なかつたのは本件土地と同時に払下になつた建物代金未払のために本件土地につき訴外会社名義の所有権移転登記がおくれていた為である。
三、訴外会社が払下により買受けた物件は総額二百四十八万八千百九十八円に達する土地建物であつて本件土地はその一部五十七万九千四十円にすぎず訴外会社は右物件払下代金の融通を控訴人の外続木製作所、徳山興産有限会社にも求めているのであつて右続木製作所、徳山興産有限会社はいずれも控訴人と同様の方法で払下代金を訴外会社に貸付け前者は百八十三万円後者は七十七万五千円を以て夫々払下物件を取得しているのである。従つて控訴人のみ条件附代物弁済契約の方法により本件土地を取得したものでないと述べ、
反訴につき
一、本件土地の時価が被控訴人主張の如くであることはこれを認める。
二、国税徴収法第十五条によれば滞納者の財産譲渡行為の取消を請求し得るには滞納者が財産の差押を免れるため故意にその財産を譲渡した場合なることを要するものであるところ本件土地は同条の所謂財産に該当せず又本件代物弁済契約も同条の差押を免れる行為に該当しない即ち
(イ) 訴外会社と控訴人間に本件代物弁済契約のなされた当時には本件土地の売買代金はまだ支払はれていないのみならずその支払手続にも未だ着手せられておらずまたもとより本件土地所有権の移転登記もなされていないのであつて本件土地の売買契約はこれから履行せらるべき状態におかれていたにすぎない従つて本件土地につきその所有権の経済的機能が訴外会社に移るにはその後の売買代金の支払移転登記の経由等実質的な裏付けが必要であつてこれが完了しなければ民法上の法律的効力はともかくとして経済上又は実際取引上においては買受人が所有権を取得したことにはならない即ち税法上財産が取得される現象として捕捉することは出来ない。従つて本件土地は国税徴収法第十五条の財産に該当しない。
(ロ) 本件土地の所有権が売買契約の成立によつて実質的にも一旦訴外会社に帰属したとしても売買代金が支払はれていないのであるから売主である国の訴外会社に対する契約解除権の行使により又は所有権移転登記未済のために第三者によつて所有権を主張せられその為初より所有権が訴外会社に帰ぞくしなかつたと同一に取扱はれることとなる等徴税上の見地よりも本件土地は未だ訴外会社に帰属しないのと択ぶ所はなく従つて本件土地の売買関係について第三者である控訴人がどのような参加行為をしてもそれが差押を免れる行為即ち国の徴税権侵害の行為に参加するものということはできない。よつて本件代物弁済契約は国税徴収法第十五条の差押を免れる行為には該当しない。
(ハ) 本件土地の売買契約の履行については訴外会社から売主である国に支払はるべき代金は悉く控訴人において支払をしたものであり控訴人の右出捐によつて初めて訴外会社に対する経済的実質的な所有権移転即ち税法上の財産取得が実現したのである。このように訴外会社の税法上の財産取得が生起すると同時に間髪を容れず本件代物弁済契約(所有権譲渡契約)が効力を発生したのである従つて訴外会社が税法上財産を取得したのは控訴人の出捐の結果でありその財産取得は同時に控訴会社に対する所有権譲渡契約を随伴したのであつてこの間の事態も亦本件土地が訴外会社の財産を形成するにいたらなかつたことを示すものといはねばならない若しかかる状態においても本件土地が訴外会社の財産を形成し国税徴収法第十五条の「財産」を譲渡し「差押を免れる」ものとするなれば国が是迄納税者の財産となつていたものでないのは勿論徴税担保能力を有しない物件についてまで譲渡契約の取消を請求することが出来ることとなり甚だしく不当なりといはねばならない。
三、本件代物弁済契約の取消は納税義務者でない第三者に損害を及ぼし甚だしく不当である即ち本件代物弁済契約は控訴人が自己の貸付金債権保全のために自由になし得る行為であつて訴外会社の既存乃至現存の財産を逃脱させるものでない。控訴人の出捐によつて訴外会社に財産をもたらしたものであるからかかる財産を控訴人が取得しても税法上何等国の徴税を害するものでない本件の場合国が取消権を行使するのは本件土地を控訴人の出捐によつて訴外会社に帰属させ国が独りでその結果を取得するものであつて第三者である控訴人に甚大なる損害を及ぼすものであつて許さるべきではない。
四、本件は実質的には控訴人が本件土地の取得を目的として訴外会社に出金したものであつて訴外会社は所謂トンネルにすぎず本件土地は国より直接に控訴人に所有権が移転したのと毫末も択ぶ所がない従つて本件は国税徴収法第十五条を適用すべき場合に該当しない。
五、控訴人は本件代物弁済契約成立当時訴外会社に国税の滞納があることを知らず従つて訴外会社に差押を免れる故意のあつたことを知らなかつたから国税徴収法第十五条による取消は許さるべきではない。
六、国税徴収法第十五条による取消権は徴税権を保全する限度を超へて行使することを得ない訴外会社に対する徴税権を保全するのに本件土地全部の処分行為を取消す必要はない即ち訴外会社の滞納額は百六十六万八千五百四十八円六十銭であるところ本件土地差押当時払下物件中七十七万五千円に相当するものを訴外会社は保管していたのである従つて本件土地全部に対し本件代物弁済契約の取消を請求するのは徴税権保全の限度を超へた不当のものであると述べ被控訴代理人において
本訴につき
一、本案前の抗弁は撤回する。
二、控訴人主張事実中原判決事実摘示二、三、五の各記載事実はいずれも認める但し二、記載事実中控訴人と訴外会社間になされた本件代物弁済契約成立の日時の点は除く。
三、控訴人と訴外会社間の本件代物弁済契約は通謀虚偽表示であつて無効であるとの主張は撤回する。
四、控訴人の本訴請求は控訴人において本件土地の所有権移転の本登記を昭和二十六年八月十三日になし右本登記の順位は同年六月十九日になした本件代物弁済契約に基く所有権移転請求権保全の仮登記の時まで遡るものとなし右本登記が徳山税務署長において同月二十日になした差押登記に優先することを理由とするものであるが右請求は次の理由により失当である即ち不動産登記法第七条第二項に仮登記をなした場合においては本登記は仮登記の順位によると規定されているが右規定が字句通り適用されるのは事実上物権の変動のあつた場合即ち同法第二条第一号の仮登記の場合のみであつて同条第二号の仮登記については必ずしも然りとはいへない。何んとなれば右第二号の仮登記においては始期付又は条件付請求権のように仮登記当時は未だ現実に物権変動が生じていない場合があるのであつて斯る場合後日になした本登記の順位が現実に物権変動の生じない時期までも遡り仮登記後現実に物権変動の生ずる時期までの間になした右本登記と相容れない登記に対しその順位が優先するというのは登記の本質が物権変動の公示方法であることを没却するものといはざるを得ない。もとより条件附権利といへども民法第百二十九条の規定により保全することをうるのであるが右はあくまで一般の規定に従つて保全することが出来るにすぎないのであつて同条の規定と同法第七条第二項の規定とをあはせて考えても条件付権利が保全されることにより既成物権と全く同様に取扱はるべきものと解すべき何等の根拠も存しない。従つて請求権保全の仮登記について本登記の順位が遡るのは現実に物権変動の生じ得べかりしとき即ち保全された請求権が実現すべかりし時期までであり右時期以前である仮登記の時期まで本登記の順位が遡るいはれはない本件においては徳山税務署長のなした差押登記は前示のように昭和二十六年六月二十日であり本件代物弁済契約の履行期は同年七月十日であるから右差押登記は控訴人のなした前示本登記の順位に優先されるものではない従つて控訴人の本訴請求はその理由がないと述べ、
反訴につき
一、控訴人は本件代物弁済契約の取消は徴税権保全の限度を超えたもので不当であると主張するが本件滞納処分当時訴外会社の滞納税額は百六十六万八千五百四十八円六十銭であつたのであるからこれが徴税権保全のため本件土地につきその譲渡行為を全部取消すことはまことに相当であり何等の不当もない右滞納処分当時訴外会社が七十七万五千円に相当する物件を他に保有していたことは当時徴税機関においては知らなかつたのであるから右に対し滞納処分をなし得なかつたものであり仮に右滞納処分をなし得たとしても滞納者が差押を免れるためその財産を譲渡し譲受人がその情を知つていた場合はその譲渡行為は譲渡当時譲渡人が滞納税を支払うに足りる財産を有すると否とにかかわらず国税徴収法第十五条の規定による取消の目的となるものと解すべきであるから控訴人の主張する前記事実の存否は本件取消権の成否に何等消長を及ぼすものではない。
二、控訴人は訴外会社の本件土地買受金の支払は控訴人からの借入金によりなされたものであることを以て納税資力を構成しない理由とするが債務者が財産取得のためになした代金の支払がその手持現金によつたか借入金によつたかというような支払手段についての債務者の内部的事情によつて当該財産が一般債権の担保となつたり成らなかつたりするということは一般債権者の地位を著しく不安にし取引の安全を害するものであつて到底認めることはできない。
三、控訴人は控訴人が訴外会社において本件土地を取得すると同時に本件代物弁済契約によつてこれを譲受けたのであるから本件土地は訴外会社の納税資力を構成しないというが訴外会社は昭和二十五年八月二日本件土地の所有権を取得した後本件代物弁済契約の履行期たる昭和二十六年七月十日までは本件土地の所有者であつたのであるから右期間に右財産が国税債権についての差押の目的となり得ないいはれはない。
四、別紙目録記載の土地の時価は(一)の分が百四十八万二千円(二)の分が百二十一万八千円(三)の分が一万三千五百円でその総計は二百七十一万三千五百円(一坪千五百円の割合)である。
五、訴外会社に対する滞納税額は昭和二十八年九月二日現在二百一万七千四百四十六円に達している。
と述べた外原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する(各立証省略)。
三、理 由
まず本訴につき審究するに本件土地を訴外防府油脂株式会社が昭和二十五年八月二日国より買受けて取得し翌二十六年六月十五日その旨の登記を了したこと控訴人と右訴外会社との間の同年六月九日控訴人が訴外会社に対し本件土地の買受代金として貸付けた金五十七万九千四十円の弁済期を同年七月十日とし右期日までに履行しないときは弁済に代へて本件土地の所有権を控訴人に移転するとの約旨に基き控訴人が本件土地につき同年六月十九日右所有権移転請求権保全のための仮登記(山口地方法務局徳山支局受付第三六三三号)を経由したこと徳山税務署長が同年六月二十日右訴外会社に対する国税滞納処分として本件土地を差押へその差押登記(同支局受付第三六五七号)をしたこと控訴人が前示約旨に基き本件土地につき同年八月十三日代物弁済による所有権移転の本登記(同支局第四四三七号)を了したことは当事者間に争がない。
そうすると被控訴人には一応本件土地に対し同年六月二十日訴外会社に対する国税滞納処分としてなされた右差押登記の抹消手続をなすべき義務あるものといはねばならない(この点に関し被控訴人は控訴人のなした昭和二十六年八月十三日の所有権移転の本登記の順位は所有権移転請求権保全の仮登記のなされた同年六月十九日まで遡るのではなく本件代物弁済契約の履行期である同年七月十日まで遡るにすぎないからそれ以前になされた前記差押登記に優先するものではない従つて控訴人の本訴請求は失当であると主張する。成る程仮登記が不動産登記法第二条第二号の請求権を保全するものである場合にはその本登記の対抗力は右仮登記のなされた時期までは遡らず単に実際に物権動変の生じた時期まで遡るにすぎないと解すべきではあるが右物権変動の生じた時期と仮登記のなされた時期との間に本登記と相容れない登記があるときは請求権を保全する仮登記そのものの効力として該登記の排除を求め得るものと解するを相当とする従つて本件において控訴人のなした所有権移転の本登記の対抗力は所有権移転請求権保全の仮登記のなされた同年六月十九日までは遡らず単に本件代物弁済契約により物権変動の生じた同年七月十一日まで遡るにすぎないが右時期以前であつて而も右仮登記のなされた時期以後である同年六月二十日なされた差押登記に対しては右仮登記そのものの効力としてその抹消手続を請求し得るものといはねばならない従つて被控訴人の右の主張は理由がない)。
ところが被控訴人は本件代物弁済契約は訴外会社が財産の差押を免れるためになしたものであつて国税徴収法第十五条に所謂滞納者が財産の差押を免れるために財産を譲渡した場合に該当するから反訴において右代物弁済契約を取消す旨主張するから進んで反訴につき審究することとする。
ところで本件代物弁済契約が財産の差押を免れるためになされたものかどうかを判断するについては本件代物弁済契約の当事者である訴外会社と控訴人との関係、本件代物弁済契約成立の時期、本件代物弁済契約成立当時の訴外会社の財政状態、本件代物弁済契約の内容等を検討する必要があるからこれらの点につき考えるに
(一) 訴外会社と控訴人との関係
成立に争のない乙第八号証第九号証第十号証の二第十一号証及原審における証人長野澄夫同藤川国雄原審及当審に於ける証人岩本得造の各証言当審における控訴会社代表者御厨実美の訊問の結果を綜合すると
(イ) 訴外会社は昭和二十二年六月頃動植物油脂採油並精製廃油再製及松根油精製をなすを目的として設立せられたがその業績振はず次第に財政困難となり遂には事業の経営さへ出来ない状態に陥つたので訴外会社よりその製油を買入れこれを販売していた控訴会社はその救済に乗出しその結果控訴会社の代表取締役御厨実美同取締役磯部喜一及訴外会社の取締役長野澄夫等が発起人となつて同二十五年七月頃訴外会社の石油製品販売等に関する一切の業務の代行等を目的とする日本油業株式会社を設立し右磯部、長野等は同会社の取締役に右御厨は同会社の監査役に就任するにいたつた事実
(ロ) 当時訴外会社は本件土地を買入れんとしてその代金の調達に悩んでいたので右の如き特殊の経済的関係に立つ控訴人において日本油業株式会社及訴外会社の発展のために本件土地買受代金五十七万九千四百円を訴外会社に貸与するにいたつた事実
を認めることができる。右認定に反する原審における証人長野澄夫同藤川国雄の各証言の一部は当裁判所これを措信しない。
(二) 本件代物弁済契約成立の時期
(イ) 原審における証人西野正彦、同田村静雄の各証言及西野証言により真正に成立したものと認める乙第一号証を綜合して認め得る訴外会社が本件土地を国より買受けるに当り訴外会社は本件土地買受け後十年間は国に無断で本件土地の使用目的を変更廃止することを禁ぜられこれに違反した場合は国は無条件で本件土地売買契約を解除し得る特約のなされてあつた事実
(ロ) 前認定の如く訴外会社と控訴人との間には特殊の経済的牽連関係の存する事実
(ハ) 当事者間に争のない控訴人が本件土地売買代金を訴外会社に貸付けた当時右貸付金については何等利息及弁済期の定めのなかつた事実
(ニ) 成立に争のない乙第十四号証の二及当審における証人大下助一の証言を綜合して認め得る司法書士西見毅が本件代物弁済契約に基く所有権移転請求権保全の仮登記申請の委任を控訴会社より受けたのは昭和二十六年六月上旬である事実
等を併せ考慮するときに本件代物弁済契約は控訴人が本件土地売買代金を訴外会社に貸付けた昭和二十五年八月二日当時には未だ控訴人と訴外会社間には成立しておらずそれより約十ケ月を経過した昭和二十六年六月九日にいたり初めて控訴人と訴外会社間に締結せられるにいたつた事実を認めるのが相当である右認定に反する原審における証人国吉省三原審及当審における証人岩本得造同西見毅の各証言及当審における控訴会社代表者御厨実美の訊問の結果は当裁判所これを措信せず成立に争のない甲第四号証の一、二第五号証第六号証によるも前記認定を覆すを得ない。
(三) 本件代物弁済契約成立当時の訴外会社の財政状態
原審における証人波野嘉一同松田正治同戸倉大作同岩本得造の各証言及右松田正治証人の証言により真正に成立したものと認める乙第六号証並に成立に争のない乙第三号証第四号証第七号証を綜合すると
(イ) 訴外会社は昭和二十五年二月十日その所有に係るギアーポンプ外十数点の動産及電話加入権に対し、同年九月六日その所有に係る銀行預金に対しいずれも滞納処分として徳山税務署長より差押をうけたこと。
(ロ) 昭和二十五年九月三十日当時の訴外会社の負債は四百六万円余の多額に達していたこと
(ハ) 昭和二十六年六月二十日当時訴外会社の財産は約五、六万円にすぎないのに当時の国税滞納額は実に百六十六万八千五百四十八円六十銭に昇つていたこと
(ニ) 本件土地は当時売買代金の約二、三倍にも騰貴しておりこれに対し滞納処分のなされることは容易に看取し得る状況にあつたこと
等を認めることができる。
(四) 本件代物弁済契約の内容
原審に於ける証人岩本得造の証言により真正に成立したものと認める甲第一号証によると本件代物弁済契約の内容は訴外会社において控訴会社より借入れた五十七万九千四十円を同年七月十日までに支払はないときは本件土地(その価格が売買代金の約二、三倍にも騰貴している事前認定の通りである)の所有権は何等の行為を要せずして控訴人に移転すべき趣旨のものであつてその履行期も本件代物弁済契約成立後僅か一ケ月にすぎず前認定の如き訴外会社の財政状態に照し訴外会社には契約当初より履行の見込の全然なかつたものである事が認められる。
以上認定の各事実を綜合考覈するときは訴外会社は本件土地に対する差押を免れるために故意に控訴人と本件代物弁済契約をなしたものと認めるのが相当である。
而して訴外会社は右代物弁済契約の履行期である昭和二十六年七月十日までに債務の弁済をせずために控訴人において右契約に基く代物弁済により本件土地の所有権を取得するにいたつたこと前示の如く当事者間に争のないところであり訴外会社が現在本件滞納税百六十六万八千五百四十八円六十銭を弁済するに十分なる資力を有していないことは弁論の全趣旨により明らかである。そうすると訴外会社のなした本件土地に対する本件代物弁済契約は国税徴収法第十五条に所謂滞納者が財産の差押を免れるために故意に財産を譲渡した行為に該当するものといはねばならない(この点に関し控訴人は本件代物弁済契約のなされた当時本件土地は売買代金も支払はれていないのみならず所有権移転登記もなされていないから実質上訴外会社の所有に帰したといへない従つて本件土地は国税徴収法第十五条の財産に該当せずこれに対してなした本件代物弁済契約は同条の差押を免れるための行為に該当しない旨主張するが本件土地は昭和二十五年八月二日訴外会社が所有権を取得したものであること当事者間に争のないところであるから売買代金が未だ支払はれていなくても又所有権移転登記がなされていなくても本件土地が国税徴収法第十六条の財産に該当するものであることは極めて明らかでありこれに対する代物弁済契約が差押を免れるため故意になされたものであること前認定のとおりであるから控訴人の右の主張は理由がない更に控訴人は本件土地の売買代金は控訴人において出捐したものであり訴外会社は控訴人の出捐により初めて実質的に所有権を取得したものであるから本件土地は国税徴収法第十五条の財産に該当しないと主張するが財産取得のためになされた売買代金支払の方法の如きは単に買受人の内部事情にすぎないから控訴人が実際に出捐したからといつて本件土地が訴外会社の所有に属しないものとはいへない本件土地が国税徴収法第十五条に所謂財産に該当するものであること前記認定のとおりであるから控訴人の右の主張も理由がない更に控訴人は訴外会社の出捐により実質上本件土地の所有権を取得すると同時に間髪を容れず本件代物弁済契約によりこれを譲受けたから本件土地は訴外会社の所有に属せず従つて国税徴収法第十五条の財産に該当しない旨主張するが訴外会社は昭和二十五年八月二日本件土地の所有権を取得した後本件代物弁済契約の履行期である昭和二十六年七月十日までは本件土地は訴外会社の所有に属していたことは極めて明らかであるから本件土地を以て国税徴収法第十五条の財産に該当しないとすることはできない右控訴人の主張も理由がない)。
而して控訴人は本件代物弁済契約が財産の差押を免れるためになされたものであることは全然知らなかつた旨主張するけれども右契約が本件土地に対する差押を免れるためになされたものであること控訴人が知つていたことは前認定の如く控訴人が訴外会社と特殊の経済的関係にあつた事実に徴し明らかであつて右認定に反する当審における控訴会社代表者御厨実美訊問の結果は当裁判所これを措信しない。そうすると被控訴人は国税徴収法第十五条に基き訴外会社の本件土地に対する本件代物弁済契約の取消を請求し得るものといはねばならない(この点に関し控訴人は本件土地は控訴人の出捐により訴外会社が所有権を取得したものであるからかかる財産を控訴人が取得しても何等国の徴税権を侵害するものでない本件の場合被控訴人に取消権の行使を許すことは第三者である控訴人に甚大なる損害を蒙らしめるものであつて不当であると主張する。しかし本件土地が訴外会社の所有であること訴外会社は差押を免れるため本件土地につき故意に控訴人と本件代物弁済契約を締結したこと控訴人は右契約が差押を免るためになされたものであることを知つていたこと前認定のとおりである以上被控訴人が徴税権保全のため本件代物弁済契約を取消し得ることは当然であつてこれがため控訴人が損害を蒙つてもこれまた止むを得ない所といはねばならない従つて被控訴人の取消権の行使により単に損害を蒙るとの理由によつて右取消権の行使を不当となすことは出来ない右控訴人の主張は理由がない更に控訴人は訴外会社は所謂トンネルに過ぎず本件土地は国より直接控訴人に売渡されたのと毫末も択ぶところがないから本件の場合は国税徴収法第十五条を適用すべきでない従つて被控訴人の取消権の行使は許されないと主張するが本件土地は訴外会社が国より直接買受けその所有権を取得したものであつて控訴人は単に売買代金を訴外会社に貸付けたにすぎないこと前認定のとおりであるから控訴人の右の主張の理由なきことまた極めて明白といはねばならない)
ところで右取消権行使の範囲は本件滞納税徴収権を保全する限度に限られるものと解するを相当とするからこの点につき審按するに本件滞納処分として差押をなした当時の滞納税額は百六十六万八千五百四十八円六十銭であるところ本件代物弁済契約の対象たる本件土地即ち別紙目録記載の(一)(二)(三)の土地の時価は(一)の分が百四十八万二千円同じく(二)の分が百二十一万八千円同じく(三)の分が一万三千五百円で合計二百七十一万三千五百円(この事は当事者間に争のないところである)であるから右滞納税額徴収権を確保するためには本件代物弁済契約の右(一)(二)の土地に関する部分のみを取消すを以て十分とする従つて被控訴人は右の範囲においてのみ本件代物弁済契約の取消を請求する権利があるものといはねばならないこれに対し控訴人は本件滞納処分当時他に七十七万円余に相当する建物を訴外会社は保有していたのであるからこれを無視して本件代物弁済契約を取消すことは許されないと主張するが控訴人主張の建物の存在するが如き事実は被控訴人において本件滞納処分当時全然知らなかつたこと原審における証人戸倉大作の証言により明らかなるのみならず右建物はその後処分されて徳山有限会社の所有に帰し現在訴外会社の所有でないことは控訴人においてもこれを自認しているから本件代物弁済契約取消につき控訴人主張の七十七万万円余に相当する建物の存在していたこと等はこれを考慮する必要はない従つて右控訴人の主張は理由がないそうすると被控訴人の右取消権の行使により別紙目録記載の(一)(二)の土地に対する昭和二十六年八月十三日附控訴人名義の所有権移転登記(山口地方法務局徳山支局受附第四四三七号)はその登記原因を欠くことになるから控訴人には被控訴人に対し右登記の抹消登記手続をしなければならない義務があることになる。
右の理由により被控訴人の反訴請求は右の限度において理由があるからこれを認容しその余の請求は理由がないからこれを棄却すべきものとする右の如く反訴の請求が右の限度において認容される以上控訴人の本訴請求は別紙目録記載の(三)の土地になされた昭和二十六年六月二十日附差押登記(山口地方法務局徳山支局受附第三六五七号)の抹消登記手続を求める限度において理由があることとなるからこれを認容すべきものとしその余は理由なきに帰するからこれを棄却すべきものとする尚被控訴人の請求中仮執行の宣言を求める部分は相当でないと認めるからこれを棄却すべきものとする。
よつて原判決が本訴請求を全部棄却し反訴請求を全部認容したのは失当であり本件各訴訟はその理由があるから原判決を変更すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 岡田建治 大賀遼作 鳥羽久五郎)
(別紙目録 省略)